特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律

■中央環境審議会野生生物部会第3回入種対策小委員会会議禄(抜粋)

■議事録一覧■



 環境省自然環境局

  1. 日時  平成15年4月15日(月)10:30〜17:00
     
  2. 場所  経済産業省別館10階 1028会議室
     
  3. 出席委員 
    (小委員長)   岩槻 邦男    
    (委員)   阿部  永 
    小寺  彰
     大井  玄
     山岸 哲
     加藤 順子
     鷲谷いづみ
    (専門委員)   石井  実   大矢 秀臣  小林 正勝
     
    (環境省)   福井総務課長
    黒田野生生物課長           
    笹岡国立公園課長
    田部自然環境計画課長
    渡邊鳥獣保護業務室長
    上杉生物多様性企画官          

  4. 議事

【岩槻委員長】 それでは、ただいまから移入種対策小委員会第3回を始めさせていただきます。
 前回は意図的導入についての基本的な考え方をリストアップして、意図的導入のためのリスクの評価をどうするかというような議論もしていただいたんですが、そういう総論的な議論に基づいて、きょうは意図的導入に関して
問題がありそうな具体的な例について、幾つか勉強する機会を与えていただきましたので、午後まで長時間になると思いますけれども、十分勉強していただいた上で、理解を深めて、具体的な議論はまた次回にやらせていただくという、そういう形で進めさせていただきたいと思います。

(中略)

【大矢委員】 ペットの方の動物について少し補足をさせていただきたいと思いますが、先ほど石井委員の方からモラルだけの問題で大丈夫かというお話もございました。現在、飼育のペット動物、テレビの影響というのは非常に大きいということが1つ言えます。最近消費者金融のコマーシャルでチワワが出ておりますけれども、あれで現在チワワ市場が、本当に犬が、売れるものがなくなってしまっているというのが現状でございます。それからアライグマもかつてラスカルというテレビのアニメ、これで爆発的に人気が出たということで、そして新聞等でこの動物は危険だとか、例えばオウム病の問題になりますと、ペットショップの前に非常に高価なオウムが、かごごと捨てられている、飼育放棄される、そういうような現状がかつてございました。今でもまだその傾向はないとは言えないと思うのです。ただ、動物愛護法で動物を飼ったら最後まできちっと飼わなければいけませんという縛りができておりますので、先ほど浅田さんのお話の中にありましたように、地方自治体だとかいろんなレベルで飼育者の指導をしていかなければいけないのではないかな、そんなようなことを感じております。

 ペット動物だけではないのですが、いわゆる
生動物の輸入に関わる規制なんですが、家畜伝染病予防法、感染症予防法、狂犬病予防法、そしてワシントン条約、渡り鳥条約、そういったもので縛られてきておりますので、以前のような野放しの輸入体系というのはかなりなくなってきているのではないか。ただ税関の方は、大分広がりはできましたけれども、まだまだ輸入頭数がキログラムで提示されるというような統計法をとっておりますので、輸入頭数の実態が分からないというのが大きな問題です。鳥類は、ウエストナイルの関係で4月21日から規制がかかりますので、ある程度輸入数量はわかってくると思いますけれども、そういった問題が1つ残っているかなと。
 それから最後に
輸入者の登録の問題なのですが、ワシントン条約が発効する以前に、私どもは当時の通産省に輸入業者の許可制みたいな、鑑札制ができないかということを申し上げたのですが、当時の通産省としては輸入拡大を言っているときに輸入業者を縛るというのは時代の逆行になるので、それはできないということで、いつもいろいろな問題が発生するたびに、輸入業者の許可制・免許制というものが出てくるというのが現状でございます。

【大井委員】 輸入業者の方は利潤追求のためにやはりある程度自由な状況が望ましい。それからペットを飼育される方はかわいい、だけどそのうちに飽きてくる、捨てましょうということになってくる。捕獲の場合でも、ロジスティックな意味において北海道の例などを見てみますとなかなか思うようには、効率的には捕獲できない。それから官庁の方からいいますと、輸入するときの頭数も分からない。通産省はそういうことについては輸入を拡大するためには制限はしない方がいい。それぞれの面において非常に大きな問題というものが錯綜してございます。
 それで恐らくこれを、
1つのところを非常に厳しくしても、それは余り効果はない。したがってまず包括的なインプットを抑えるということ、飽きたらば捨てるとか、そういうようなアウトプットを抑える、それから捕獲するということ、この3つのことを全部一度にやらないと、効果的な規制というのはできないのではないかという気がいたします。従いまして、そのときの原則というのはどういうものかというと、恐らくそれぞれの人たちがある程度痛みを感じていただかないとこれは効果的にいかない。つまり捨てる場合には罰金だとかそういうようなこと、相当きちんと出して、それから業者の方が今度は売るときには、そういうような罰金がかかるんですよ、あるいはある意味では規制屋になるということですね、それをきちんと話をすることを義務付ける。例えば医学の場合でもインフォームド・コンセントというのがございますけれど、そういうことは当然考えられてもいいのではないかと思うんです。
 そういうことで、私は包括的にどういうふうにして網を広げるかという、現実的なところ、どのように考えられておられるのか、環境省の方のご意見をお伺いしたいと思います。

【岩槻委員長】 事務局から。

【事務局(河本)】 おっしゃるとおり、それぞれのインプット、アウトプット、駆除というお話がございましたけれども、それぞれに何らかの施策を打っていく必要があろうかと思います。
 本日こういう形でヒアリングの場を設けさせていただきましたのも、それぞれのまず状況を把握した上でこれからどういう施策を打っていくべきかということを考えたいということで、こういうのを設けさせていただいておりまして、はっきりしたお答えを今申し上げることができないのですけれども、この場での議論、あるいは必要な情報があれば言っていただきたいと思うのですが、そういうものを踏まえてこれからどうすべきかということについては、考えさせていただきたいというふうに思います。

【岩槻委員長】 どうぞ、大矢委員。

【大矢委員】 昔はライオンやトラは個人が自由に飼えたんですね。ところがペット条例の規制ができまして、それ以後ライオンやトラが欲しいというお客さんが来られますと、まず県の許可をとってください、許可証を持ってくればお売りしますよというような言い方をすれば、100%そういう形態はなくなってきたわけです。ですからここでいろいろな論議される動物の対象をどうするかというのが1つ残りますけれども、そういうものに対しては飼育許可制というか、届出制、浅田さんのご意見の中にもございましたけれども、まだまだワニだとか爬虫類で、本人はかわいいで飼っていますけれども、他から見ると非常に危険だなと思うものも一般に事実市販されています。そういうものを含めて許可制、届出制ということが1つの網かけになっていくのではないかと、そんなふうに思います。

(中略)

【岩槻委員長】 それでは米田さん、横山さん、どうもありがとうございました。
 第2部をこれで終わりにさせていただきまして、第3部は「観賞用昆虫類(クワガタ等)について」ということで、最初はタイコ エレクトロニクス アンプ株式会社の小島さんにお願いいたします。

【参考人(小島)】 初めまして。タイコエレクトロニクス、環境コーディネータの小島と申します。今日こちらに来ている中で唯一、全く業界とも学会とも関係ない立場で来ているのではないかと思います。環境コーディネータという仕事は、私どもの会社で作っております電子部品関係、これに環境負荷物質を入れない、ないしは工場から環境負荷物質を出さないといったことを監視・啓蒙する立場で社内で働いております。
 ボランティアというか、趣味でやっておりますのが下にございます
@niftyというコンピューターネットワークで、昆虫フォーラムのサブシスというものをやっております。こちらの方で主にクワガタムシ関係の会議室の運営というものをやらせていただいています。皆さんにお配りした中にはちょっと入っていないんですが、どんなことをやっていた人間なのかと、まるっきり市井の愛好家ですので、私が書いた論文、報告論文ないしは本をごらんになったことがない方は全くわからないと思うんですが、このようなところから世の中でいろいろと取りざたをしていただくようになっております。

 
特に今回のクワガタのブーム、カブトムシのブームというきっかけになりましたのが、1986年に、むし社というところが『月刊むし』という昆虫専門誌を出しているのですが、ここでオオクワガタ特集号というのをやりました。これがどうやらブームのきっかけになったようです。それまでクワガタムシというのは林長閑先生という方がミヤマクワガタが4年1化であるということを発表されていたために、ほとんどの愛好家が繁殖に手を出していなかったのです。私はこれを半年ないしは1年ぐらいで親になることを確認して、そのことを発表したところ、非常に反響が大きくて、生き虫の業者からは何でおまえそんなことを発表するんだと、おれたちの商売をたたきつぶすのかということを言われたり、あるいは一部の愛好家からは熱狂的な支持をいただいたりして、いろいろとやってまいりました。

 1996年に、長年研究してきました、趣味ですがクワガタムシの飼育のことを本で出しまして、これが累計で2万部弱売れたそうです。むし社で一番たくさん売れた本だそうです。
1998年ごろになって、オオクワガタが日本全国でレッドブックに載るような状況になってしまいました。野生個体が激減しているということで、何かしないと自分でやはりブームのきっかけをつくってしまいましたので。それで「オオクワガタ スズムシ化プロジェクト」という、ちょっとふざけた名前ですが、オオクワガタをだれでも簡単にスズムシのように飼えるようにしてしまえば、野生個体をわざわざ捕りに行くようなばかなやつはいなくなるのではないかということで始めたのですが、逆にその直後に農林水産省が輸入種の大量な許可を始めたために、これもかなり危ない状態になってきております。こんなようなことをやっている人間です。

 いわゆるクワガタのマニアではあるのですが、
そういうようなブームのごく初期からそれに関わっている人間として、以下の問題点があるというふうに認識しています。
 
まず1番の問題点。原産地、原産国の保護種が輸入許可になっているという実態があります。これは翻って言えば、もし日本の立場で見るとすれば、ヤンバルテナガコガネを輸入して飼っていいよということをどこかの国が言っているのと全く同じことです。それから同じように原産地で害虫となっている種ないしは潜在的に害虫になり得る生の植物を食べる、傷つける種類も輸入許可になっています。それから、もう一つの問題ですが、マルハナバチの問題でもありましたが、国内種と交雑し、妊性のある子孫を残すような種類も大量に輸入されております。

 それからクワガタの場合は幼虫時に腐植を食べます。腐った木、葉っぱ、土中の腐植物を食べますが、これを消化するために大量のバクテリアを幼虫時代、腹に蓄えています。このバクテリアの起源をいろいろと調べてみますと、どうやら成虫になった後もそれを保持していて、卵を産むときに卵殻に塗りつけるなどして、母子間でバクテリアを譲渡・感染しているということが分かってきました。ということは
幼虫の輸入を許可していなくても、体内共生菌ないしは最悪の場合には何か毒性のある寄生虫をそのままつけて輸入しているということが言えます。

 
もう一つの問題点は大量にクワガタ・カブトムシが輸入許可になっているために、業者が輸入許可されていない種類も何となく許されるような感覚を持ってしまって、まだ輸入が許可されていない種類も大量に店頭に並んでいる、ないしは雑誌の宣伝に載っているという状況になっております。原産国の保護種、ワシントン条約の保護種まで輸入許可するのは異常ではないか。例えばタイワンオオクワガタ、シェンクリングオオクワガタ、ヨーロッパミヤマクワガタ、ニジイロクワガタ、ギラファノコギリクワガタ、この辺というのは普通にお店で売っています。ところが原産国のほとんどでは保護種ないしは生体での輸出を禁止している種類であります。マルガタクワガタに至っては、ワシントン条約II類のはずですが、農水省は輸入許可を出しております。その種は先だってウェブの数えた方に伺いましたら、約500種に及ぶ。私も知らない種がたくさんあります。ちょっと異常な事態だと思います。

 それから、奈良の方がオーストラリアで逮捕されました。
インスラスキンイロクワガタです。これも3月28日に追加許可されています。このときはこの新聞記事、現地の自然保護法だけではなく、世界遺産保護規定の違反まで追起訴されるという事態になっております。状況としましては国内で許可しているために、日本に持ち込めば何とかなるだろうという甘い考えを持って海外に行く方が多いために、再三の逮捕者を海外で出しております。このほとんどが現地の法規制の初適応であります。日本人がその法律を初めて破っているという状況です。

 台湾の友達から数年前にもらったメールです。台湾で日本人の有名なクワガタムシのコレクターが捕まった。この人は何をやっていたかというと、
台湾で保護されているシェンクリングオオクワガタ、タイワンオオクワガタというものを大量に捕獲して日本に持ち帰ろうとしていた。たまたま不幸なことに、この数年前に8センチのオオクワガタが1,000万円で売れたという誤ったやらせの報道がありました。それが台湾でも普及していました。ですからこの捕まった人はその1,000万円級のオオクワガタを台湾から大量に持ち出そうとしたのではないかという、ある意味ではいわれのない疑いまで含めて受けて、実際には現地法に違反したわけですから逮捕はやむなしですね。これが台湾日報に報じた日本人の逮捕者の例であります。ところが、その方が持ち帰ろうとしたシェンクリングオオクワガタ、日本国内で繁殖されたものは3,000円で売っています。異常に野生個体、海外捕獲個体というものに高値がつくために、そういったような海外での違反を重ねる方が後を絶たないということです。

 
それからもう一つの問題。原産地で害虫となっている種、はっきり現地で、例えばアボガドの大害虫、クビホソクワガタというものが輸入許可になっています。このアボガドの大害虫が日本の果樹に害を与えないというのは一体だれが言い出したことなのか。農林水産省が本当にチェックしたのかということを知りたいと思います。それからパプアキンイロクワガタというクワガタは、1980年代ぐらいに子供用の本にベニバナボロギクというものの茎を切って汁を吸うという生態が発表されております。これは残念ながら文献が出る前に普通の子供用の図鑑にそういうものが載ってしまったために、だれも文献に書いていない。従って農水省の方は文献をチェックしたけれども、このパプアキンが生の植物を切るというのを誰も知らないというような話がありました。

 私がパプアキンイロクワガタを使ってやった実験ですが、花屋さんでいろんな花を買ってきて無作為に花束をつくって、そこにパプアキンをとまらせました。5分ごとに花を切ります。あらゆる花を切ります。ポピー、パンジー、デイジー、チューリップ、何でも切ります。ともかく自分が気に入るような汁が出るまで切り続けて、このように花を全部切り落としてしまって、飛んでいってしまいました。もちろんこのときは外に飛ばないように注意しました。ということは、この
パプアキンイロクワガタが害虫化する可能性は非常に高い。この種が住めるような気候のところであれば、当然日本でも野生化して大害虫になる可能性がある。こちらにいらっしゃる五箇先生に伺いましたら、モルジブではこれが侵入大害虫になって、どうやって駆除したらいいかということを聞かれたそうです。現実に問題があるのは熱帯種なんですが、新成虫は非常に高い耐寒性を持っています。私が実際に確認した例でも、日本の前の冬、そのまま新成虫で越冬してしまいまして、今活動を始めています。これが温暖な花卉園芸地域、例えば奄美大島のようなお正月に花を供給するような地域に入って野生化したら一体どうなるのか。だれが責任をとるのでしょうか。

 
ここに4種類のオオクワガタが並んでいます。クワガタムシに詳しい方は余りいらっしゃらないと思うんですが、この中には日本のクワガタは1匹しか入っていません。実はこうずらっと並んでいる中で日本のオオクワガタはこれだけで、タイワンオオクワガタ、ホペイオオクワガタ、グランディスオオクワガタで、非常によく似ているんです。この3種は日本のオオクワガタと近縁であります。ただし地域的にはかなりかけ離れた種類です。当然交雑します。妊性のある子孫を残します。それから海外のオオヒラタは日本産のヒラタクワガタと交雑が可能であります。こうした交雑個体、近縁種を国内種の「美形個体」と言って売る業者がいます。それから海外種を日本産の大型個体と偽って売っている業者もあります。もっと極端な場合は、全く何の断りもなしに、海外のオオクワガタ、ヒラタクワガタを単にオオクワガタ、ヒラタクワガタと表示して売っている業者もいます。要するに何でもありなんですね。めちゃくちゃなことをやっています。結果、非表示の輸入種を知らずに買ってしまって、雑種をつくってしまって、生まれた子供がおかしいので調べてくれということで、国立環境研究所に持ち込まれた例もあるそうです。私が確認した例ではヒラタクワガタ、オオクワガタではかなりこれが多く出ています。

 それから
寄生虫や体内共生菌に関する予備知識が全くなしに、腐植食性昆虫、体内に大量のバクテリアを持っている化学工場みたいな連中を輸入しているわけです。ヤフーの海外ニュースなどにも取り上げられましたけれども、実は短期間に大型のクワガタムシを殺してしまうダニというものが近年発見されました。私のところでも発見されまして、五箇先生のところで見てもらったのですが、国内でも海外でも未記載種のようです。どこから来たのかわかりません。もしかしたら国内のどこか変わったところから来て、それがたまたま病原性を発生しているだけかもしれませんし、海外のクワガタと一緒についてきたものかもしれません。

 これの特徴は、大体3カ月ぐらいで取りついたクワガタムシのふ節から、汁を吸うのか何か毒性のあるものを出すのかして、このようにふ節を落としてしまいます。歩けなくなるのです。歩けなくなってくると全身に広がっていって、3カ月ぐらいで7センチぐらいのオオクワガタ、ヒラタクワガタを殺してしまいます。これは外から見てはっきり寄生されているということがわかるのですが、先ほど申しましたように体内共生菌の方は目では見えません。1,000倍の顕微鏡で見て初めてわかるようなバクテリアが体内に大量に含まれています。このものを果たして誰かチェックしたのかというと、誰もしていないです。彼らの体内はバクテリアの巣です。我々は熱帯雨林の底から一体何を輸入しているかわかっているのか。誰かが調べたのか。誰も調べていません。エボラ出血熱もエイズも前世紀になって発見された新しい病気ですけれども、そういったものに感染して中間宿主になったクワガタムシ、カブトムシというものは今まで知られていません。知られていないからといって本当にリスクがないのかということは、誰も断言できないと思います。この辺はぜひ調べていただくべき事柄ではないかと思います。

 ここからマニアックな話に入ります。クワガタムシ類の利用の状況、及び愛好者の飼育実態というものです。まず、
生き虫の購入者は繁殖が主目的であるということです。繁殖して次世代でかっこいいクワガタムシ、大きなクワガタムシをかえしたい。観賞ばかりではないんです。ともかく増やすことをまず前提に考えます。それから血統協会がないのですが、なぜか血統主義がまかり通っております。それから地域指定のブランド主義のマニアがいます。例えば兵庫県の阿古谷というところのオオクワガタは姿形がいい、だからそこのものをおれは買うんだというようなことをやります。買ってみたものをミトコンドリアDNAで見てみますと、実は佐賀産と全く一緒だったりします。要するに産地詐称がまかり通っているということです。

 それから
かっこいい交雑個体ができると、それをだまして売ってしまうというような悪徳な業者もいます。さっきも言いましたけれども、外国産で日本産によく似ているオオクワガタ、ヒラタクワガタを単に大型な国産種として売る例が非常に多くなっています。私も実は、委員をやっていますので、余り偉そうに言えないんですけれども、毎年駆り出される「オオクワガタ美形コンテスト」というものまであります。昨年からは中国産のホペイに関してのコンテストも行われるようになりましたが、実はこの種は中国では輸出禁止になっております。こういったことがいろいろあります。

 
一番の問題、1番から毎年数十個体の子孫が誕生します。これに対して昆虫採集をした経験の少ないマニアは、自分で虫を殺して始末ができないんです。結果どうなるかというと、姿形がよい個体を求めていろいろなものを買い集めて自分でやるのですが、しかしクワガタムシの体型というものはほとんど後天要因です。生まれた後の餌の条件、温度の条件によって著しく変わります。結果として産地詐称や雑種、特定個体を偽る詐欺行為が起こるということと、もう一つはお金持ちと貧乏人とあるいは利殖を考えた人と趣味だけで走っている人ということで大きな差が生じます。

 当然、不人気な個体とか地域の個体は安値で取引されて、
最悪の場合、最後は遺棄対象になる。ただし、だれもがクワガタムシを飼えるような環境になっていますから、これを逆にうまく利用すれば希少種、こういったものを一般家庭で保護に利用することもできるかもしれません。この辺ですね。美形個体と称するものをつくるためにみんな一生懸命頑張っているんです。ここで問題なのは、できが悪いやつは捨てられてしまうのです。捨てられてしまった結果、地域多様性も何もなくなってしまいます。最悪の場合には外国産でも捨てられてしまいます。これをどうやって防止するかというのがこれからの課題だと思います。ここに2匹のオオクワガタがいます。どちらかが雑種、どちらかはブランドの個体です。見比べていただいてより幅が広い左の方が高そうに見えますが、これはタイワンオオクワガタと日本のオオクワガタの雑種です。右側の方がほぼ純血であろうと思われるオオクワガタ。

 ではこの
輸入を一律に規制してしまったらどうなるのか。まず経済効果のマイナス面が考えられます。正規輸入個体数というのは、大体1匹1番当たり100ドルぐらいかかって高価なものは輸入されております。これを禁止してしまうと全部がアンダーグラウンドに潜ってしまう可能性がある。一時期、暴力団の資金源になっている、ないしはそういった部分で悪い影響があるというようなことも言われていました。昨年の例では北朝鮮産のヒラタクワガタ、オオクワガタというものが数千匹単位で、ある業者が引き取らなかったために宙に浮いて、マーケットじゅう回っていた時期がありました。その後それがどうなったかわかりません。捨てられてしまったとすれば、日本国内で野生化している可能性があります。

 
みんな増やしているわけですね。輸入した個体が増えている。×10は、これはかなり控え目な数字です。大体30匹ぐらいの子孫がとれます。ということは、100匹輸入したら翌年にはそれが3,000匹になってしまう可能性もある。そういったものを果たして管理し切れるのか。仮に正規輸入の個体を年間100万匹として、1匹100ドルで試算すると、年間120億円ぐらい輸入しているものが減ることになります。実際には正規以外の輸入がもっとあると思います。販売価格は輸入価格の約2〜3倍、死んでしまってももう一度仕入れて売って利益を出すためには、3倍以上で売らなければなりませんので、約3倍で売っています。ということは360億円以上の売り上げ減になる。輸入されたクワガタムシは繁殖されます。繁殖するためには当然飼育資材が必要になります。その飼育資材は1番につき10匹分必要ですから、この10倍ぐらいの市場がこの部分に存在することになります。このマイナス効果は日本だけではありません。今輸出している国の方にももろに響きます。

 海外とのトラブル事例、これは読んでいただければわかるのですけれども、生き虫昆虫、生体の輸出を禁止しているネパールから、なぜか私のところにメールがいきなり来ました。ある日本の業者に協力するなと、いろいろな理由が書いてありました。この国内の輸入業者がコントラクトプライス、協定プライスをひっくり返そうとして値引きをしろと言ったんです。それで怒って、ここの業者とはおまえら絶対つき合うなというような、いわゆる密告状みたいなものを回したのです。ネパールは生き虫の輸出をしようとしたら逮捕・拘禁されます。ですから、彼らも必死なんです。ばれてしまえばえらいことになる。ということで、こんなようなトラブルもありました。
トラブルの元凶は恐らく保護種や規制がある地域から輸入を許可している日本の立場が一番大きいと思います。これは暴挙であろうと思います。

 それから、
所得格差というものが当然原産地と日本の間には存在します。その結果彼らは日本人に売れば高く売れるだろう。一時期、グランディスオオクワガタというクワガタが大人気になって、当時ラオスの引き取り価格で1匹100ドルと言われていました。100ドルはラオスの現地の年間収入と相当するそうです。そのためには大木切り倒してでも捕ってやろうという気になります。森林破壊が起こりました。ということで、法規制のある国の輸出業者にとって、生き虫の密輸というのは検挙されて拘束されて、最悪刑務所に入らなければいけないようなことになっています。それをあえてさせるようなことを日本の輸入許可は増長しているということです。もし海外のマニアがヤンバルテナガコガネというのを密輸出したら、日本では大問題になりますよね。天然記念物で日本人でも捕ることができません。それと同じことを日本人の業者ないしはその業者と取引をしている海外の人たちはやっていることになります。このギャップは、放置すれば国際問題になるかもしれません。

 まず私どもが訴えたいのは、
原産国の保護種は原則輸入を禁止したいということです。それから500種もの輸入許可種というのはちょっと異常だと思います。その500種全部に対して安全リスクの確認をしたのか。多分、していません。ということは不必要に輸入種を増やすようなことはやめるべきだと思います。輸入種が持つリスク、例えば遺伝子攪乱であるとか、ニッチェをとってしまうとか、害虫化する寄生生物を持ち込むとかというような危険性です。このあたりはとりあえずやらなければいけないのは業者・愛好家・研究家などに啓蒙するべきだと思います。その上で哺乳動物でも話がありましたが、生き虫の輸入業者を許可制にして、密輸・密売には厳罰をもって臨むということが必要だと思います。その上で生き虫のビジネスを今後も許しておくのであれば、適切な管理下に置く必要があるでしょう。ここで問題なのは、単に法律で禁止しても実効があるとは思えないということです。

 いい点、玉石混交ですが、クワガタの研究者というのが非常に増えました。そのおかげでクワガタムシ・カブトムシの
飼育技術は日本は世界一になっていると思います。例えばクワガタと同じ手法で飼えるヤンバルテナガコガネ、これは民間のそういうのが得意なところに出せば、恐らくあっという間に繁殖して増やすことができるようになると思います。こういったものはぜひ利用するべきだと思います。今後も輸入許可を続けるのであれば、国内の飼育技術を海外にも移転し、例えば海外の原産国の野生個体や自然を圧迫せずに、輸入が続けられるような体制をとるべきだと思います。このままですと日本の自然破壊をそのまま海外にも輸出しているのと同じことになりかねないと思います。やや飼育している愛好家側としては偏った考えかもしれないのですが、必ずしもいいことばかりと我々は考えていないということをお伝えして、終わりにしたいと思います。

【岩槻委員長】 どうもありがとうございました。
 では、引き続き環境研の五箇さんにお願いいたします。

【参考人(五箇)】 国立環境研究所の五箇です。ただいま小島さんの方からお話がありました輸入クワガタの生態リスクについて、うちの研究所でとっている科学的データについてお話ししたいと思います。
 
現在日本では大量の外国産クワガタムシが輸入されていまして、恐らく世界中で最もたくさんの種類のクワガタムシを見ることができる国となっております。ここには代表的な種類しか書いてありませんけれども、ほぼ世界中クワガタが分布する地域から、色もとりどり、形も様々なクワガタムシが現在日本に集中的に輸入されています。
 
輸入の経緯については、一体どうしてこのように輸入が始まったかと。その背景には、いろいろ言われていますけれども、政治的な駆け引きの材料に使われたという話まであります。何にしても1999年11月まで何とか植物防疫法でストップさせていたものが突如解除されまして、48種類、外国産のクワガタムシ、カブトムシの輸入が始まりまして、その後決壊した堤防のごとく、次から次へと輸入許可種がふえまして、2003年3月現在でクワガタムシ505種類、カブトムシ55種類、合わせて560種類の輸入が認められております。
 ちなみにクワガタムシ図鑑という本で記載されております世界のクワガタムシは1,500種類とされておりますから、実に3分の1ものクワガタムシが現在日本で輸入可能となっているということになります。
輸入数ですが、申請されているだけで年間60万匹と言われています。密輸も含めれば恐らく年間100万匹は超えるであろうと。そのほとんどが標本目的ではなくて、それを元手にまた繁殖させようと考えているわけですから、実に100万匹を元手にまたさらにそれを増やしているわけですから、今日本でうごめく外国産のクワガタムシの数というのははかり知れないものになります。
 こうした
輸入クワガタムシ、カブトムシも含めて、こういったものが実際に生態系影響を及ぼすかということについて、長年にわたって昆虫学者ですら外国産のクワガタムシ、カブトムシ、こんな巨大な熱帯産のものは日本のフィールドで成長できるはずがないだろうと、楽観視していたのですが、それはクワガタムシの生態に関する知識がほとんどゼロだったゆえのことで、実際に原産国へ行ってみると、クワガタムシのほとんどは熱帯、亜熱帯、赤道直下のものでも極めて高い標高域に生息するものがほとんどで、むしろ暑さに弱いぐらいで、寒さに強いものが非常に多い。日本の軽井沢ぐらいの気候だったら、平気で越冬することが可能であるということが、わかっています。ということは十分野生化が可能であるということです。
 こうした
クワガタムシの大量の商品化によって、どのような生態学的な問題が起こるかということで、まず整理してみますと、もともと外国産が入る以前からクワガタムシというのはバブルの時代の背景も受けて、非常に高値でその希少性が値段を呼びまして、国内産のオオクワガタを中心にクワガタムシの飼育ブームというのがありまして、それが乱獲をもたらしたり、投資の対象になったりという時代があったんですが、その時代から既に地域ブランド志向がオオクワガタを中心に乱獲を招いてしまって、数を減らす。更にそれを採集するために雑木林を徹底的に破壊するといった環境破壊の問題も引き起こしていた。大量に増殖したりしたものをあちこちに放したりするということによって、地域固有性が喪失するおそれがあるという背景はもともとあった上に、そこに追い打ちをかけるように、ここ数年で外来種が大量に移入され、まず外来種が逃げ出して在来種と交尾をして、遺伝的に汚染していくのではないかという問題が考えられる。それから、外来種が外来の寄生生物を持ち込んでくるかもしれないということで、それでなくても環境破壊も重なって疲弊し切った日本のクワガタムシの個体群に外国産が押し寄せて、もう文字どおり絶滅の危機に立たせようとしているというのが現状であります。国立研究所では、特に外来種が実際に在来種の遺伝子を汚染するのかとか、寄生生物を持ち込んでいるんだろうかということについて、実証データをとるということで検査をしています。
 まず、遺伝的な侵食の問題について、日本のクワガタはもう既に絶滅の危機にあるので、このまま滅んでしまう前にまず日本のクワガタそのものがどのような地域固有性を持っているのかということをデータベースとして保存しておく必要があるということで、うちの研究所では特に市場の規模が大きいヒラタクワガタとオオクワガタについてDNAでデータベースをつくるということで、各地域からサンプルを採集しまして、現在ミトコンドリアと核のDNAについて塩基配列調査を行っています。
 ここでは
ヒラタクワガタのお話をしますけれども、クワガタをご存じの方だったら名前は知っていると思います。最も日本でメジャーなクワガタムシの1つですが、一言でヒラタクワガタといいましても、日本には実は地域ごとにこれだけ形態の異なる地域固有の系統がいます。大体12系統あると言われているのですが、これだけ多様なヒラタクワガタが存在するというのは、やはり島国ならではなんです。こういったヒラタクワガタそのものが、実際に遺伝的にどの程度分化しているかということをデータベースとして保存しようと。
 非常にたくさんの個体のDNAを調べまして、系統樹という形で類縁関係を各地域個体ごとに、このようにDNAのデータベースから描いてみますと、要するに地域ごとにそれぞれ固有の遺伝子組成を持つ集団に分化しているということが、形からもある程度類推されたものが遺伝子レベルでも証明されたわけです。このように島ごとに独特の遺伝子組成を持つ集団が形成されていて、外群としてスマトラオオヒラタクワガタやフィリピンのヒラタクワガタやタイのヒラタクワガタというのを位置させているんですが、要するに
同じヒラタでも外国のものと日本のものは違うし、日本の中でも地域によって遺伝子が違うというのがわかったわけです。
 
ところが、この遺伝子の調査をしている段階で、なぜか神奈川県の方からスマトラオオヒラタクワガタと同じDNAを持つ個体が見つかったり、静岡県の方からタイのヒラタクワガタのDNAを持つ個体が見つかったりということで、こういった調査をしている段階で既に外国産のDNAを持つ個体が日本国内から見つかり出した。この約1年半の調査の間に、DNA解析によって発見された国外及び国内の侵入種のDNAというのはこれだけあります。つまり長崎県の方からはタイにいるはずのヒラタクワガタのDNAがとれたり、あるいは、同じく神奈川県の方でスマトラオオヒラタクワガタのDNAがとれたりと、外国のDNAが国内でも見つかる。同時になぜか石垣島にいるはずのサキシマヒラタのDNAが兵庫県や静岡県の方で見つかったりということで、外国産のみならず国内のいろんな系統も商品として出回っているせいで、外国産のDNAだけではなくて、国内のいろんな系統のDNAも混じり始めようとしているということがわかりました。
 
外国産のヒラタクワガタは、どのようなものが輸入されているかといいますと、主な原産国は中国や東南アジアになります。体の相対比からいいましても、日本のヒラタクワガタに対してこれだけ大きな体をしたヒラタクワガタが、大きいということもあって人気があって、どんどん輸入されています。基本的には分類学的にも日本のヒラタクワガタと近しい、あるいは遠い類縁関係を持つ系統がたくさんいると言われているのですが、ヒラタクワガタのみならず、クワガタ全般について基本的には生態はおろか分類も実はまだきちんと行われていなくて、特にヒラタクワガタについては分布域が広い上に、さまざまな形態変異があって、実はまだきちんと記載されていない集団というのもたくさんあるわけです。名前も生態もわからない状態で大量に輸入されて、DNAレベルで日本の集団を汚染し始めようとしているというのが現状です。
 外国のヒラタクワガタについても、先ほどの日本のものと同じように入ってくるものがどのような遺伝子組成を持っているのかということを把握するためにも、このようにDNAのデータベースをつくって系統関係を見ています。侵入種問題とは別の話になりますけれども、外国のものも含めて見ると、非常にいろんな地域にいろいろな遺伝子組成を持つ集団が分布しているということがわかります。結局こういったデータが全然できていないにもかかわらず、いろんな島からいろいろなヒラタクワガタがじゃんじゃん捕られて、日本にどんどん入れられている。そういった意味からすれば、こういう東南アジアの固有のヒラタクワガタについても乱獲の問題もあるということもわかるわけです。
 この系統関係から分かることは、ヒラタクワガタについては少なくとも北に分布する小型の個体と南に分布する大型の個体にまず大きく遺伝的分化していて、その系統関係から日本のヒラタクワガタというのが、実際に遺伝学的にどのような位置にあるかというと、アジアのどこかで発生したヒラタクワガタが一方は北に、一方は南に分化していく過程で、日本のヒラタクワガタというのは、その進化の果てに誕生したものであると類推されています。北は朝鮮半島経由、南は琉球列島がまだつながっているときに入ってきて、それがここでぶつかり合って、あるいは島ごとに分化していって、多様な遺伝子組成を持つ集団に分化していったということが考えられる。これから言えることは、
日本のヒラタクワガタというのは、本当にものすごい長い時間をかけた生物進化のプロセスを経て、ようやくでき上がった、まさに何百万年という時間をかけてでき上がった固有の進化的遺産とも言うべきもので、そういったものがたった数年というタイムスパンで人間の手によってクワガタが移入されるということで、壊されようとしているという現実があるということです。
 実際にそういった種間交雑というのが起こるかどうか、というのを室内レベルでも調べています。この写真はスマトラオオヒラタクワガタ、体長が9センチから10センチある大きな雄が、日本の3センチぐらいしかないヒラタクワガタの雌に交尾を迫って襲っているという写真です。こんなに体格差があっても雄はちゃんと雌を認識して襲うんです。組み合わせを逆にしてみました。この大きな5センチぐらいあるスマトラオオヒラタクワガタ、東南アジアの大きなヒラタクワガタの雌に対して、5センチぐらいしかない日本産のヒラタクワガタの雄をかけ合わせました。これだけ体格差があるとさすがにオスがメスをはさんで死なせてしまうこともないので、安心して飼ってみました。すると、雑種の卵が生まれました。38個卵が生まれて、38個とも全部ふ化しまして、すくすく成長しまして、このようにたった5センチの雄から体長8センチを超える巨大な雄が誕生しました。これから何が言えるかというと、
普通種間交尾、あるいは亜種間交尾をすると妊性がなくてひょろひょろと弱い雑種が生まれるのが普通ですが、この昆虫に関しては雑種強勢とも言うべき非常に強くてたくましい雑種が生まれるということです。またあごの形態も両方の親の形質を兼ね備えていて、非常に性格も荒い、強い雑種が生まれたということです。
 外国産同士でもこういうことが起こり得る。違う島に住んでいるスマトラオオヒラタクワガタとパラワンオオヒラタクワガタという巨大なヒラタクワガタ同士をかけ合わせます。大あごの形質に注目してほしいのですが、内歯の位置がすごく上にあるものと下にあるもの同士かけ合わせて出てくる雑種がこのようにちょうど中間の位置にして、なおかつ体の大きさが10ミリを超える非常に巨大でたくましく強い雑種が生まれるということです。
 これから何が言えるかというと、このように
あまり空を飛ぶことができない大型の甲虫類については、生殖隔離という、つまり本来なら種同士を分けるためにお互いに交尾をできなくするというメカニズムが進化するところを、彼らはもともと別々に島ごとに、あるいは山ごとに分化して進化してしまったがために、生殖隔離を進化させる必要がなかったわけです。だから放っておけば出会うことがないので、そのまま分化を果たしてそれぞれの種に独立して生きているのを、人間が簡単にそれを出会わせると、生殖隔離が進化していないので、簡単に交雑して雑種をつくってしまう。そういった意味で、生物学的にも遺伝的攪乱が起こりやすい種類であるということが科学的に示されたわけです。
 次に、
寄生生物の持ち込みのおそれ、これについても実際に持ち込まれているかどうかということを検査しています。これはカブトムシの雌に寄生しているイトダニの一種と考えられる正体不明のダニですが、このように足や腹に大量に寄生して、これはダニの拡大図ですが、非常に大型のダニで体長が2ミリぐらいあるんですけれども、これに寄生されるとクワガタムシやカブトムシが約1カ月から3カ月のうちにこのように寄生された足の部分が腐り落ちて、衰弱して死亡するという症例が発見されています。このようにダニが寄生することで甲虫が死亡するという症例というのは、これまで科学的に調べられた例がほとんどない、というよりも、虫に寄生するダニとか寄生生物の研究なんていうのは、研究が進んでいない。
 実際に輸入品を1個1個チェックしてみますと、
これはタイワンオオクワガタの幼虫に寄生しているダニです。この縞々についている粒々、これ全部ダニです。幼虫にびっしり取りついています。この幼虫も結局死亡しました。拡大するとこんなふうにダニがびっしり付いています。その他にも輸入品からこのように、もうわけのわからないダニが山のようにざくざく見つかります。要するに、目に見えるダニだけ見ても、輸入品から次から次へといろんなダニが、明らかに国内のものとは違うダニも含めてたくさん見つかるわけです。
 このことは何を意味しているかというと、目に見えないマイクロオーガニズムを含めると、いろいろな生き物が実はもうクワガタの体にくっついて日本に入ってきているということを現実に表している。
ジャングルから生きた虫をはぎ取るということは、そのジャングルの中の生態系を一部切り取って持ってくるようなもので、そういうことを何も考えずに大量に無作為に無秩序に入れているという、この国自体のリスク管理の意識の低さみたいなものを堂々とあらわしていると思います。
 次に生物学的な問題以外に、ソーシャルの問題として
密輸の問題があります。これはアンタエスオオクワガタといって、日本でも非常に人気の高い商品の種類ですけれども、これはいろいろな産地に生息しているんですが、日本での販売価格を示しています。地域によって値段がばらばらで、インドネシアのは非常に安い。50ドルで5,000〜6,000円ですけれども、なぜかインドやブータンやネパールのは1匹5,000ドル、約60万円もするんです。何でこんなに高いかといったら、ネパール、ブータン、インドというのは虫1匹、草1本取っちゃいけない国であって、こういうものが本来売られるはずがないのに売られるということで、希少性ゆえに日本ではすごい高値で売られる。結局日本人が密輸するために日本からマニアや業者がどんどん渡っていって、ガイド等の目を盗んで、ポケットにクワガタを潜ませて成田に持って帰る。ところが、日本ではそれを取り締まる法律がないので、税関で取り締まられることもなく、国内で流通している。
 行政機関の対応はどうなっているかということについて知っている範囲で言えば、
この問題について農水省はどうしてきたかと。植物防疫法という法律でとにかく規制していたのが、なぜか99年11月に輸入の規制が解除されてしまった。そこまで、植物防疫法そのものは日本の農林作物を加害する植物の輸入を禁止する法律なので、クワガタムシ全部をこれで取り締ることはどだい最初から不可能だったのです。その意味で、ここまで頑張っていただけましなのですが、輸入した後、なぜ輸入規制を緩和したのかということに対して、クワガタムシと甲虫類については、植物防疫法の管轄外だから取り締まりようがないというのが見解であると。
 ただ、そう言っておきながら、今ももう議論になっていますけれども、ミドリトリバネアゲハとかいう虫ですが、こういったチョウチョも含めて、昆虫類の輸入について、議論を進めているという現状が一方ではある。環境省ですが、具体的な行動はこれまで一切ございませんでした。これ自体情けないと思います。これはやはり環境の問題なので、環境省が一番に手を挙げなければいけない。この会議ですけれども、2003年2月からこの小委員会が設置されたということで、個人的には今度こそ具体的なアクションを期待しております。
 こういった問題に対して学者の方は、どうしていったかということですが、学会の対応としてこういう問題に対しては特に関心を深めるべき
日本応用動物昆虫学会については、はっきり言って外国産のクワガタムシに対しては無知・無関心で、これが結局問題の拡大を見逃してきてしまった。
 
一方、昆虫学会ですが、こちらの方は日本鞘翅学会や日本甲虫学会、あと日本昆虫分類学会と共同で、別途甲虫輸入規制法の早期法令化に関する要望書を提出するといった形で、関心は高いです。ただ学会そのものが大きくないので、インパクトが弱いかなというところがある。
 トータルで見て学術レベルで見ても、リスク評価のための科学的実証データをとる努力がされていないまま、楽観論、危機論、すりかえ論が横行するだけで、
結局クワガタの問題にちゃんと言及しているのは、一部の研究者でむしろ愛好家や一般の方のほうが問題意識が高かったりする。こんな500億円を超えるような市場の問題を、行政レベルではノータッチである。
 それから
外国はどういう反応をしているか。得ている情報としては、これは新聞にも出ましたけれども、去年12月オーストラリアの世界遺産の島からクワガタムシなど昆虫1,000匹を持ち出そうとした日本人が2名逮捕されたということは、日本でも大々的に報道されて、かなり問題になりました。その後、今年2月にAP通信によって、我々のクワガタムシ寄生ダニのトピックも、アメリカの方で報道されて、かなりこの問題は世界的にクローズアップされつつあります。ただ、結局日本以外の国ではクワガタムシに対する愛着がほとんどないので、むしろ外貨獲得のいい材料とすら考えていて、ネパール政府からはクワガタムシの大量増殖法に関する問い合わせが、環境研の方にメールでも来ています。北朝鮮のクワガタが大量に日本にも輸入されているということで、外貨獲得の材料に使っているという現実があるわけです。
 去年タイのバンコクでありました移入種対策の会議で、ネパール環境省の人に会いましてこの話をしたら大喜びしまして、うちのクワガタがそんなに高く売れるのなら、おれもとってきて売ってやるという、冗談ですけれども、結局日本におけるクワガタムシ販売の実状を知って怒るかなと思ったら、怒らないんですね。クワガタムシに対する愛着はほとんどないので、それが結構問題をより複雑にしているわけです。
諸外国にとってはいいお金になるという、外貨獲得材料として捉えられてしまっているというところで、こうした国々がクワガタに対して愛着があれば、もうちょっと規制に乗り出したりもしてくれるだろうと考えられるんですが、それができていない。
 これは移入種とは関係ないんですが、クワガタの問題といってしまえばそれまでですが、クワガタですらお金で買っているという日本の現状というのを外から見ればこんな感じだろうと、野生生物だけではなくて、農作物も熱帯林も北洋材も水産資源、石油も、ありとあらゆるものを結局外国からお金で買っている、要するに
物質文明大国日本という、とても生物多様性条約加盟国とは思えない醜態をさらけ出している先進国としての日本の姿を象徴するのが、このクワガタの問題であろうと言えるということです。
 こちらからは以上です。

【岩槻委員長】 どうもありがとうございました。
 お二人とも熱のこもったレクチャーをいただきましたので時間がほとんどなくなってしまったんですけれども、多少時間を延長してディスカッションさせていただきたいと思います。どなたからでもご質問、コメントをお願いいたします。どうぞ、石井委員。

【石井委員】 私、日本昆虫学会の会長で、応用動物昆虫学会の評議員だったりして、なかなか立場がつらいのですけれども、五箇さんにシンポジウムでお話をしていただいて、かなり意識が高まってきたところなんですけれども、引き続きよろしくお願いしたいと思います。
 ちょっとこの先のお話をお聞きしたいんですけれども、例えば
オオクワガタとかヒラタクワガタの飛翔能力とか移動能力とか、その辺はどのぐらいあるのかということです。それからダニについてお話にありましたけれども、全くその生態についてわかっていないのかどうか、2点お聞きしたいと思います。

【参考人(小島)】 オオクワガタとかヒラタクワガタを実際に定性的にどのぐらい飛翔するかテストした実験というのはほとんどないです。個人的にやったのではミヤマクワガタの雌と雄を使って、上下をテグスでつないで、空中に置いておいて何分間羽ばたけるかというのをやってみました。時速5〜6キロで飛ぶと考えて、数百メーターないしは数キロの移動可能な能力があるというふうに考えています。飛翔のためには、およそ気温にして20度とか18度ぐらい以上が必要であって、クワガタムシの場合には事前にたくさん歩かせて、筋肉を温めておかないと飛び立てないというようなところがあります。従って一個体における移動能力はそれほど高くない。それから定置性が非常に強いという傾向がある昆虫だと思います。

【石井委員】 寿命は長いのでしょう。

【参考人(小島)】 オオクワガタで考えますと、活動を始めてから雄で最低3年、長いものは5年ぐらい生きます。したがって1匹の外国産の非常に強いオオクワガタがどこかにニッチェを占めてしまって、そこで繰り返し交雑を繰り返すとその子孫はその一生の上に100匹ぐらいに達する可能性があるということです。それから先ほどのパプワキンイロクワガタ、あれは25度以上あれば準備運動なしにハエのように飛び立ちます。

【参考人(五箇)】 ダニの生態のことですが、ダニの種数というのは全然わかっていなくて、恐らく昆虫種に匹敵するであろうという種数がいるにもかかわらず、学者の数は昆虫学者の10分の1ぐらいしかいないわけで、その数から見ても研究例が余りにも少ない。特にダニの世界では公衆衛生の面からいって人の血を吸うとか、動物の血を吸うというダニとか、あとは農業害虫のダニの研究に集中していて、昆虫に寄生するダニの世界というのは未知の部分が非常に多いですね。そういった意味では種名すらわからないものも多数ある。実際それがどのような生活をしてどこに分布していて、どのような菌を媒介するかということもほとんどわかっていない。ダニにおいてすらもこれなので、昆虫に寄生している菌、あるいは昆虫に便乗しているバクテリアウイルスの問題というのは、ほとんどもう、まるっきりわかっていないというのが実情であるということです。

【岩槻委員長】 ほかにいかがでしょうか。加藤委員、どうぞ。

【加藤委員】 遺伝的侵食については、もう実際にそういうことがありそうだということでデータがあるわけですけれども、例えば生息域からの駆逐ですとか、それ以外の生態学的な影響というのは、もう見られているのですか。どんな状況でしょうか。

【参考人(小島)】 異種間で競合があるかという実験を実際にしたことがあるのですが、例えば日本産の中でも同種的に存在するミヤマクワガタ、ノコギリクワガタ、ヒラタクワガタ、オオクワガタといったものを一種のリングをつくって闘わせるわけです。そうすると温度がどんな温度帯になっても最も強いのがノコギリクワガタである。環境が十分残っている伊豆半島などですと、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタ、ヒラタクワガタというのは同種的に見られるのですが、ノコギリクワガタが多いところではヒラタクワガタとの比率はおよそ10対1から20対1ぐらい。要するにヒラタクワガタの繁殖が抑えられている実態があります。
 ところが、ここ数年東京都が導入した半透明ごみ袋でカラスが非常に増えました。
一番強いノコギリクワガタは昼間も活動するために、カラスの捕食圧にさらされているようです。私の実際に調べた範囲では、ノコギリクワガタが都内では激減していまして、かわりにヒラタクワガタが非常に増えてきています。東大の本郷などでも、昔はいなかった5〜6センチあるようなヒラタクワガタが採集できるような状況になっています。ということは、国内種同士でも相互に競合し合っているという事実がありますので、ここにさらに強力な海外種が入った場合には、当然ニッチェの争奪があり得ると私は考えています。喧嘩させてみると、海外種の方が強いです、はっきり言いまして。体も大きい、体力もあるということですね。

【岩槻委員長】 そのほか。どうぞ、大井委員。

【大井委員】 広東の方ではやっておりますSARSですか、そういうウイルスの起源というのがまだ全然わかっていないわけですけれど、エイズでもそうですし、それ以外のエボラ出血熱だとか、そういうミクロオーガニズムが昆虫だとかあるいは哺乳動物、そういうものとどういう関係を持っているのか、本当にブラックスポットでわからないのですが、こういうものについて何かそういうことをもう少し戦略的に見ていこうという、そういう動きがもしあったら教えていただきたいと思います。

【参考人(五箇)】 国立環境研究所の方では、次の研究課題として侵入種がもたらす寄生生物の持ち込みの問題に焦点を当て、今昆虫類を一つ挙げればこういったクワガタなりマルハナバチが持ってくるそういうダニの問題なり以外にも、恐らくさまざまな輸入昆虫が腹の中に、昆虫そのものに害を及ぼさなくても、そのまま自動的に持ち込まれているというものについて、まず分類学的にどういったものが入ってきているのかということの把握と、やはり疫学的な調査を行うということは検討しています。ただ余りにもやはり未知の部分が多過ぎるので、これをやるとなると相当なエネルギーと資金が必要になってくるだろうと考えていますが、そういった研究の着手については既に準備中です。

【山岸委員】 今日ご発表いただいたようなものの、ここに書いたものもあるんですが、恐らくオリジナルというのはこの2001年のmolecular ecologyあたりだと思っていいわけですか。

【参考人(五箇)】 寄生生物の問題については、molecular ecologyでマルハナバチのマルハナバチポリプダニのことを紹介しています。現在クワガタについては準備中という状況です。オリジナルはこれからになります。

【山岸委員】 そうすると、過激なご発言があったけれども、はっきりしてから時間がたっていないのではないですか。

【参考人(五箇)】 確かにタイムスパン、特にクワガタの問題についてはここ3年の話なので、余りにもタイムスパンは短いのですが、ただ同時に問題のクローズアップの仕方ははっきり言ってマスコミも含めて、もうマルハナバチの比でない。他のアライグマ、マングースも含め、クローズアップの仕方は異常なまでに既にされていて、なおかつ、愛好家の歴史そのものも長いわけですから、知られていなかったというよりは、単に気がついていなかった時間が長かっただけで、現実問題は実は伏線も含めて長かったと考えるべきではないかと思います。

【山岸委員】 やるべきことは余りにもはっきりしていて、これからどんどん動くんじゃないかと思うのですが、ともかくおもしろかったです。

(中略)

【岩槻委員長】 それでは、大分時間が超過しておりますので、またいずれ内部でのディスカッションをやるということにさせていただいて、きょうはこれで終わりにさせていただきます。どうもお二人のレクチャー、ありがとうございました。
 午前中から10人の方にお話をいただいたんですが、皆さん非常に熱を込めて思いのたけをお話になりましたので、途中でやめてくださいとなかなか言いにくくて、時間が超過するままになってしまって、それで随分遅くなってしまいましたけれども、おかげさまでいろいろ勉強させていただいて、再確認したこともありますし、それから新しい知識を得たこともあると思いますけれども、今日のせっかくの機会を今後の議論に生かしていきたいと思います。発表いただきました方々、どうもありがとうございました。
 それでは、これで今日はもう、あとこのディスカッションはしないで、次回に今日のことを踏まえて意図的導入の問題の議論をさせていただきたいと思うんですけれども、何かこの際、特に委員の方からご発言ございますでしょうか。
( な し )

【岩槻委員長】 事務局の方から、それではお願いします。

【事務局】 次回第4回の小委員会でございますが、5月27日の火曜日10時から、環境省の第1会議室で開催する予定でございますので、よろしくお願いいたします。

【岩槻委員長】 それでは、どうも長時間、ありがとうございました。これで終わりにさせていただきます。

【黒田野生生物課長】 どうもありがとうございました。